南アルプス 深南部
【戸中川源流・鹿の平周辺】

鎌崩(かまなぎ)尾根からの鎌崩
※写真はクリックすると拡大できるものがあります。(容量に注意!)

日時:2000年9月14日(木)夜〜17日(日)
パーティ:三浦(CL)、川田(SL)、四方


 昨年、黒法師から鎌崩を越えて鹿の平から不動岳、と言う山行を計画した。
 初日は文句なしの快晴で始まったが、黒法師の山頂について設営を終える頃に雨になった。翌日も強い雨が降り続いて、天候の回復は望めなかったので、結局そのまま下山することになった。
 今年はそのリトライとして、鹿の平へ一度上がり、不動岳を往復して、鎌崩を越えて丸盆岳から下山する計画を立てた。
 折しも名古屋は歴史的な豪雨の直後。しかし台風一過の快晴とはならず、前線の微妙な動きで晴れたり降ったりと先の読めない気圧配置が続いていた。更に南の海上には台風17号も控えている、と言う怪しげな状況ではあった。もう一つの心配は先の豪雨で林道が崩壊していないだろうかと言うことだった。現地に問い合わせて、林道の心配は無いとの情報を得、木曜の夜とりあえず名古屋を出発した。
 深夜に到着した戸中川林道のゲート付近は、満月を過ぎたばかり(十七夜)の月が明るく照らす中、静かに眠っているようだった。

9月15日(金) 晴れのち雷雨
 明けて15日は敬老の日。深南部の谷は深い。朝日は射さないが頭上には青空が広がっていた。
 支度を済ませて、林道を歩き出した。今回の取り付きはゲートから約7Km。2時間に渡るアプローチをこなさなくてはならない。気合いを入れて林道を歩き出した。林道は手入れがしてあって、先日の豪雨による土砂も片づけられていた。しかし林道に沿う本流は濁流が音を立てて流れ、流れ込む沢も真っ白にたぎった水が沢いっぱいに溢れかえっていた。
 豊富な水の感覚に鹿の平の端にあると言う水場を期待して、4リットルの水を担ぎ上げる予定を、2〜3リットルに変更した。それでも今回は荷が重い。「鹿の平で焼き肉パーティをする」と言う馬鹿な計画を立てていたからだった。
 途中頻繁に現れる大きなガマに驚いたりしながら、それでも2時間程で林道を走破。鎌崩尾根の取り付きに着いた。
 地図を見ると、結構変化に富んだ登りで、険しいところもあるが、緩やかな登りもあるように見えた。実際には黒法師の登りもそうだったが、稜線まで延々と急傾斜が続くのだった。
 取り付きから30分程は植林地の外れの斜面をジグザグに登った。ここが第一の難関だった。植林のために皆伐された斜面には光を喜ぶ草や低木が育っていた。ここはそれがイバラや山椒、タラ等、ともかく棘のある草木ばかりなのだ。あまり人が入らない急斜面のつづれ折りは狭く、今にも崩れそうな不安定な状態なのに、掴まろうと手を伸ばすとそれが皆トゲを持った植物なのだった。
 緊張を強いられる半ピッチを越えると、ようやく植林地の上部に道は続いた。
 この先は笹藪が煩わしいが、笹にはトゲがない。傾斜は相変わらず厳しいが、笹を掴めるだけ安心になった。
 とは言うものの、この登りもアキレス腱が伸びきってしまいそうなほど辛かった。植林が終わると辺りは太古から変わらない雑木林になる。しばらくはブナの巨木が美しい。
 登山道は木の根を絡んで強引に登るほどの急登になったり、倒木が邪魔をする笹藪になったりするが、全体的に傾斜は厳しくて、気を抜くことを許してくれなかった。
 途中でMがバテた。ペースは上がらない。でも、初日は鹿の平が目的地なのでのんびり登った。
 しばらく登ると、東に展望が開ける。鎌崩から丸盆、黒法師が良く見える展望台だ。いつの間にか雲が少し出てきていて、黒法師はかすんでいた。
 展望台で休憩して元気を付けた後、また急な登りを続けた。鎌崩の頭は近そうでなかなか近づかない。何回かだまされて、やっと登り立った。遠くは雲が懸かって、折角の頂上だったが、展望は余り良くなかった。
 息を整え、行動食を口に入れて、早々に鹿の平を目指した。スリップに注意して、低い草丈の尾根をゆくと、広大な笹藪が現れた。夢にまで見た鹿の平だ。ガスが出始め、風が強い。鹿の平は風の通り道なので、なるべく風の弱そうな場所を選んで、北西の端をキャンプ地に決めた。
 設営を終え、ラジオで天気予報を探した。どれを聞いても良い話がない。
 日暮れまで、ゆっくりして、ランタンを点した。いよいよ今回のメインイベント、鹿の平焼き肉パーティの始まりだ。ガスはだんだん濃くなって、広大な笹の広場に白骨化した疎林が幻想的な雰囲気を醸し出す。遠く近く鹿の鳴き声が聞こえた。
 ともかく、目的の一つの焼き肉は、担ぎ上げた遠山のジンギスカンとビールで達成できた。ガスはどんどん濃くなるが、翌日の好天を願って、酔っぱらい達はテントに潜り込んだのだった。


 テントに入った途端、雨が降り始めた。それがだんだん強くなる。雷も鳴り始めた。いきなり目の前が真っ白になり、やがて雷鳴が届く。山に反響するので雷鳴は長く続く。次々に光る稲光は、シュラフに潜っていても目の前が赤く透けるほど鋭い。とても寝ている状況ではなかった。雷は次第に近づいて、稲光から雷鳴まで3秒を切る程になった。
 光る度に雷鳴までの秒数を数えては、「落ちるな!」とシュラフの中で祈っていた。
 雷と前後して雨も酷くなった。テントのフライシートを打つ雨音が煩くて寝ていられない位だった。フライの隙間や、テント本体とフライが接触しているところから水が伝ってテントの中に滴る。それがシュラフカバーに垂れる。そしてゴアテックスのシュラフカバーも耐えきれず、水が浸みて来る程だった。
 この夜は朝になって明るくなるのが本当に待ち遠しかった。


林道から鎌崩を見上げる


もう山はすっかり秋の気配だった。


鎌崩尾根は美しいブナの林


鎌崩の頭の少し下。黒法師の展望台

鎌崩の頭にて


数年前に写した鹿の平のパノラマ。今回の幕営地は左の端

9/16(土)豪雨
 ガマン我慢の一夜が明けた。
 雨は依然として強い。ラジオで天気予報を聞いたが、良くなる予報は一つもない。
 むしろ、沢の増水等で林道が崩れて通行止めになることが怖かった。
 不安定なテントの中で朝食を作り、風の止み間を縫ってテントを畳んだ。
 その後は早々に、鹿の平を後にした。
 歩いていても雨は「バケツをひっくり返した」様な状態で降り続いた。急傾斜で笹藪に覆われた登山道は、尚更滑りやすい。
 往路に従って、鎌崩の頭まで登り返し、鎌崩尾根を掛け下った。
 何回も笹の中に隠れた倒木に足下をすくわれそうになったが、兎も角も山の神様の怒りに触れないよう、土砂降りの雨の中を這々の体で逃げてきた、と言った状態だった。
 2時間程で林道に降りたって、一安心。後は7kmの林道歩きだけだった。
 土砂降りの雨の中、ひきがえるとヒルに悩まされながらの2時間はやはり長かった。
 それでも、疲れた足を引きずりながらびしょ濡れでゲートにたどり着いた。
 みんな仲良く、2〜3カ所ずつヒルに喰われて、血を流しながらのゴールだった。

 結局は今年も昨年とそっくりの状況で、逃げ帰ることになってしまった。

 濡れた体には山王峡のぬるい温泉が気持ちよかった。
 この日は名古屋まで帰る元気もなかったので雨の中キャンプサイトを探した。結局水窪のキャンプ場の管理人さんとオーナーの好意で近くのパンガローを借りることが出来た。
 乾いたパンガローは天国だった。

記:四方すすむ



コース・タイム

9/15

(晴れのち雷雨)

0707 戸中川林道ゲート
0811 上足毛谷(-0823)
0900 鎌崩尾根取付(-0919)
1016 1375m付近
1135 ブナの巨木の林(-1152)
1254 展望台
1339 鎌崩の頭
1426 鹿の平
9/16(豪雨) 0826 鹿の平
0852 鎌崩の頭
0915 展望台
1046 鎌崩尾根1165m付近
1119 林道(鎌崩尾根取付)
1305 戸中川営林小屋(ゲート)

記録:四方すすむ